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放射線が甲状腺へ及ぼす健康リスク

放射性物質の中で甲状腺へ害を及ぼすのは「ヨウ素131」と呼ばれる物質です。

チェルノブイリ原発事故から25年間の間に収集した約12万人分のデータの分析結果によれば、放射性物質による発がん疾患で確認されているのは、甲状腺ガンのみとなっています。

放射性物質であるヨウ素131は、甲状腺に入ってしまうと直ちに甲状腺ホルモンに合成されて、甲状腺組織の中で放射能を放出しつづけます。
そのため、甲状腺障害、甲状腺がん、甲状腺機能低下症などの原因となるのです。

甲状腺がんの発症リスクが最も高いのは乳幼児で、40歳以上の成人の場合は、甲状腺がんの発症はほとんど見られません。
一方、妊婦が被曝した場合は、胎児の甲状腺機能に悪影響を与える可能性が懸念されます。

放射性物質ではないヨウ素は、人間にとって必要な元素であり、甲状腺には海草などからヨウ素を取り込んで蓄積する働きがあります。

もともと人体には約25mgのヨウ素が存在しており、成人の場合は一日に1.5mgのヨウ素を摂取しています。

甲状腺がんは、甲状腺に生ずる悪性腫瘍のうち、上皮に由来するものの総称で、病理組織別に「乳頭がん」「濾胞がん」「未分化がん」「髄様がん」の4種に分けられます。
この中で最も多いのが乳頭がんで、甲状腺がん全体のの約8割を占めています。
放射能によって生じる甲状腺がんのほとんどが乳頭がんで、チェルノブイリ原発事故後に、その近隣地域でで多発したというデータが残されています。

乳頭がんは30〜50代の女性や若者に多く、喉にしこりができるのが特徴です。
しこり以外には典型的な症状はみられないものの、声がかれたりのどが痛んだり、つばが飲み込みにくくなることもあります。

ヨード剤摂取による放射能蓄積予防策のメカニズム

放射性物質であるヨウ素131が甲状腺に蓄積するのを防ぐためには、ヨード剤(放射能を持たない、原発事故に備えて調合されたヨウ素)を摂取することが有効とされています。

ヨード剤の摂取は、なぜ甲状腺への放射能備蓄を予防することができるのでしょうか。
それは、ヨウ素を取り込む機能がある甲状腺が、放射能に汚染されたヨウ素を取り込む前に汚染されていないヨウ素で甲状腺を飽和させておくことで、放射能に汚染されたヨウ素が甲状腺に蓄積することを防止できるとされているからです。

ヨード剤の服用は、放射性物質が甲状腺に溜まることを防ぐ効果がありますが、効果の程度は服用の時期により、最も効果が高いのは被曝直前の服用だと言われています。

しかし実際には、被曝時期を予想してヨード剤を摂取することは不可能に近いため、被曝してからできるだけ早くヨード剤を服用するよう努めなければなりません。

従って、これから放射線量が高い場所に行く場合は、ヨード剤の摂取を欠かさないようにすることが大切です。

甲状腺がヨウ素を吸収するのは空腹時で約5分後、食後の場合は約30分後です。
ヨウ素はいったん甲状腺ホルモンに取り込まれて有機化すると体内に長い間貯留する性質があります。
摂取量の目安は1日一回、成人でヨウ化カリウム130mg、1歳以下の乳幼児で65mgになります。

ちなみに、ヨード剤摂取による内部被曝の防止率は、被曝24時間前の摂取で約70%、12時間前の摂取で約90%、被曝直前の摂取で約97%であるとされています。
また、被曝後に摂取した場合の内部被曝防止率は、3時間後が約50%で、被曝後6時間経過すると、内部被曝防止は不可能とされています。

放射線の蓄積による甲状腺がんの発症率向上の事例

放射性物質であるヨウ素131は、半減期(放射能の量が半分になるまでの時間)が8日間でと比較的短めですが、甲状腺に蓄積しやすいという特性を有しているため、1986年に起こったチェルノブイリ原発事故では子どもたちの甲状腺がん発生や甲状腺機能障害などの問題が発生しました。

1996年にオーストリアのウィーンで開かれた「チェルノブイリ事故から10年」会議では、原発事故から10年経過した時点で原発事故と明らかな因果関係があるとされる健康障害は子どもの甲状腺がんのみであると報告されています。
 
子どもたちの間で多発した甲状腺ガンの症例数のピークは1995年で、その後は減っていきます。

しかし、これは甲状腺がんの発生数が減ったことを示しているわけではありません。
甲状腺がんの進行スピードがかなり遅いため、事故当時の子ども達が成長したことで、甲状腺がんが発症する年齢が上がっていったことを意味しているのです。

また、放射性ヨウ素が甲状腺がんを引き起こす可能性は年齢が小さければ小さいほど高く、チェルノブイリ原発事故が原因と思われる甲状腺がんの発病率が最も高いのは、事故当時6歳以下だった子どもたちです。

チェルノブイリ原発事故以来は発症した子どもの甲状腺がんの半数以上を占めるベラルーシのデータによれば、甲状腺がん患者の事故当時の年齢が4歳以下のケースは、10歳から14歳までのケースの約30倍に達しています。
現在30代に成長した彼ら被曝者たちは、今後甲状腺がんを発症する確率が高いのではないかと懸念されています。

甲状腺癌の最新治療法と生存率について

甲状腺がんの中でも最も多い乳頭がんは、腫瘍の成長が遅く、予後も悪くないという特徴があり、早期治療を行えば10年生存率は80%以上に達します。

腫瘍が小さい症例の場合は、30年後も95%以上の生存率があり、中でも、1センチ以下の小さな腫瘍の場合は、症例によっては手術をしなくても定期的に経過をみるだけで十分だとする研究報告もあります。

乳頭がんの治療は、手術による摘出が最も有効とされています。
乳頭がんは癌の中でも極めて予後が良好であるため、手術後のクオリティ・オブ・ライフ(患者自身がより尊厳を保つことが出来る生活を実現すること)を考慮し、手術による摘出範囲を小さくする手段の他、手術を行わず、放射線外照射、放射性ヨード治療、TSH抑制療法(甲状腺ホルモンを過量に投与して甲状腺刺激ホルモンを抑制する方法)、抗がん剤投与などを施す事例も増えています。

甲状腺癌の手術法には、甲状腺を全摘出する方法と、がんが存在する側のみを摘出する方法があります。
ちなみに、日本やヨーロッパでは部分切除術を行う割合が多くなっています。アメリカでは全摘出の例が多くなっているものの、甲状腺を全摘出した場合は一生甲状腺ホルモンを投与しつづける必要があります。

放射性ヨード治療とは、放射線を出すヨード(海草などに多く含まれるミネラル栄養素)を内服することで甲状腺組織へ選択的に放射線を吸収させ、リンパ腺などに転移したがんに効果的に放射線治療を行うという方法で、主として癌が転移している症例に用いられます。

甲状腺がんの疑いがある場合は、内分泌科、乳腺・甲状腺外科、耳鼻咽頭科などの診療を受け、早期発見・早期治療に努めましょう。
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